藤本・葛(2001)による、自動車部品のアーキテクチャー特性、すなわちモジュラー型とインテグラル(すり合わせ)型の製品特性が、取引形式に影響するという実証研究結果がある。不確実性、取引の頻度、資産特殊性¹において、競合との間で大差のないとみられる部品で、取引方式の選択に顕著な差異が観察されたと報告した(藤本・葛2001p.212)。 この現象を説明する手段として藤本・葛(2010)は、製品のアーキテクチャー的な特性、すなわち「モジュラー性」に着目した。
藤本らによれば、製品を構成する部品に関して「インテグラル型」であるか、「モジュラー」型であるかという「構造的」な視点と、その部品のオープン性が「クローズ=企業特有・業界囲い込み」であるか、「オープン・業界標準」であるかという視点で分類を行った。 この分類によって自動車は、「インテグラルな構造」であり「クローズ=企業・業界囲い込み」という特殊な製品であることが指摘された。

この製品アーキテクチャー的視点からも、自動車部品サプライヤーに要求される能力は、中核企業である自動車メーカーとの間で、綿密なすり合わせ型開発を行う能力と、不確実性をこなす能力が必要となり、その為の能力構築競争を少数の競争相手との間で行ってきたというのが、「能力構築競争」の議論(藤本、2003)であった。

能力構築競争を行っているサプライヤーは、「深層の競争力」(藤本、2003)と定義された、暗黙知次元での企業間競争を、1部品当たり2~3社という少数の競合企業との間で繰り広げることとなった。
このような深層レベルでの能力構築競争は、自社の強みをさらに深化させるという意味で、きわめて有効であったが、その一方で「能力の罠」(Levitt & March,1985)などで指摘された「リスクテイクを伴った、新しい分野への挑戦」、すなわちイノベーションの創出や普及へのモチベーションを削ぐ傾向が懸念される。

図表1.

製品アーキテクチャーの類型

出所:藤本(2004)を元に筆者編集・作成

参考文献
浅沼萬里・菊谷達弥 編集(1997)「日本の企業組織 革新的適応のメカニズム―長期取引関係の構造と機能」 東洋経済新報社
藤本隆宏 (2001)「アーキテクチャの産業論」藤本隆宏・武石彰・青島矢一編『ビジネス・アーキテクチャ:製品・組織・プロセスの戦略的設計』第1章  有斐閣
藤本隆宏(2003)『能力構築競争』 中央公論新社