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製品アーキテクチャーと取引関係のオープン化

これまで自動車用モジュールの定義や歴史について述べてきましたが、モジュラー型アーキテクチャーが取引関係の拡大に寄与する可能性について、筆者の仮説を述べたいと思います。

モジュラー・アーキテクチャーの特徴としてモジュール内部は複雑なインテグラル・アーキテクチャーで、外側の他部品とのインターフェースがシンプルであることは藤本(2003)でも説明されています。また前回も述べましたが、従来のすり合わせ型アーキテクチャーの自動車の構造は、業界・または企業囲い込みのインターフェースとなっており、いわゆるクローズド・プラットフォームの構造であると言えます。したがって、自動車メーカーと部品メーカーの取引関係は、製品の構造的視点だけを見ても、おのずと特定の関係値に閉じ込められがちになることが推測されます。

一方でモジュラー型アーキテクチャーでは、オープン・プラットフォームの恩恵、すなわち業界標準またはその企業の標準となるインターフェースのルール設定とそのルールに従ったインターフェーズ設計を行う事により、比較的容易に部品を組み合わせ、短期間で完成品を作り出すことが可能となります。このようなアーキテクチャー特性を持つ完成品メーカーと部品メーカーの関係値は、市場取引における競争の優位性を活用し、よりオープンととなることが推測可能です。
これまでは、例えばPCや携帯電話などがその好例とされておりましたが、約20~30年前このコンセプトを変則的に活用して、強引に製品化を行った事例として、藤本・新宅(2005)では中国のバイクメーカーの事例を挙げています。この当時の中国におけるバイクメーカーでは、本来インテグラル型の部品であるはずの部品を、さも「オープン・アーキテクチャー」≒モジュラー・アーキテクチャーであるかのように、強引に組み合わせることによって、開発工数を掛けずに短期間での製品化を行ったと報告しています。藤本・新宅(2005)では、この事例を「疑似オープン・アーキテクチャー」と定義しています。乗用車においても、EV化によるアーキテクチャーの変化は、モジュラー・アーキテクチャーと、この疑似オープン・アーキテクチャーコンセプトの有機的な結合によって、製品開発・生産の難易度が低下すると筆者は考えます。それによってより多くの新興完成車メーカーや部品メーカーの乱立が起こっているという事象は、まさに現在の中国市場で起こっている状況であると言えるでしょう。

まとめ:
内燃機関による自動車の構造は”インテグラル・アーキテクチャー”であり、その為に企業間関係は「特定のサプライヤーとの協調的な関係を重視する」という傾向であることは議論の余地が無い状況であったと言えます。 一方で、現在欧州や中国で売上げを拡大しているEVにおいては、これまでのインテグラル・アーキテクチャーではなく、モジュラー・アーキテクチャーと「疑似オープン・アーキテクチャー」コンセプトの有機的結合によって、すでに乗用車メーカーと部品メーカーの企業間関係がより複雑に絡み合う、市場型になっており、取引関係も非常にオープンになっているとの仮説が成り立つでしょう。

参考文献
藤本隆宏(2003)『能力構築競争』 中央公論新社
藤本隆宏・新宅純二朗(2005)『中国製造業のアーキテクチャ分析』 東洋経済新報社

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製品アーキテクチャー論的視点による自動車の特徴について

藤本・葛(2001)による、自動車部品のアーキテクチャー特性、すなわちモジュラー型とインテグラル(すり合わせ)型の製品特性が、取引形式に影響するという実証研究結果がある。不確実性、取引の頻度、資産特殊性¹において、競合との間で大差のないとみられる部品で、取引方式の選択に顕著な差異が観察されたと報告した(藤本・葛2001p.212)。 この現象を説明する手段として藤本・葛(2010)は、製品のアーキテクチャー的な特性、すなわち「モジュラー性」に着目した。
藤本らによれば、製品を構成する部品に関して「インテグラル型」であるか、「モジュラー」型であるかという「構造的」な視点と、その部品のオープン性が「クローズ=企業特有・業界囲い込み」であるか、「オープン・業界標準」であるかという視点で分類を行った。 この分類によって自動車は、「インテグラルな構造」であり「クローズ=企業・業界囲い込み」という特殊な製品であることが指摘された。

この製品アーキテクチャー的視点からも、自動車部品サプライヤーに要求される能力は、中核企業である自動車メーカーとの間で、綿密なすり合わせ型開発を行う能力と、不確実性をこなす能力が必要となり、その為の能力構築競争を少数の競争相手との間で行ってきたというのが、「能力構築競争」の議論(藤本、2003)であった。

能力構築競争を行っているサプライヤーは、「深層の競争力」(藤本、2003)と定義された、暗黙知次元での企業間競争を、1部品当たり2~3社という少数の競合企業との間で繰り広げることとなった。
このような深層レベルでの能力構築競争は、自社の強みをさらに深化させるという意味で、きわめて有効であったが、その一方で「能力の罠」(Levitt & March,1985)などで指摘された「リスクテイクを伴った、新しい分野への挑戦」、すなわちイノベーションの創出や普及へのモチベーションを削ぐ傾向が懸念される。

図表1.

製品アーキテクチャーの類型

出所:藤本(2004)を元に筆者編集・作成

参考文献
浅沼萬里・菊谷達弥 編集(1997)「日本の企業組織 革新的適応のメカニズム―長期取引関係の構造と機能」 東洋経済新報社
藤本隆宏 (2001)「アーキテクチャの産業論」藤本隆宏・武石彰・青島矢一編『ビジネス・アーキテクチャ:製品・組織・プロセスの戦略的設計』第1章  有斐閣
藤本隆宏(2003)『能力構築競争』 中央公論新社

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