本日は先行研究のレビューとして、MITのマイケル E. クスマノ教授の論文の紹介をしたいと思います。

日本と米国の自動車メーカー(日本メーカーの米国現地工場〔以下トランスプラント〕を含む)に対して1990年に実施したアンケート調査を実施し、①従来の研究が指摘している部品取引関係、サプライヤー管理及びパフォーマンスに関する日米の相違は特定の部品を対象とした日米比較データで確認できるだろうか、②トランスプラントはどのような特徴を持っているか、その背景は何だろうか、③これらの分析結果はサプライヤー管理全般にとって、そして生産、調達、開発のグローバル化にとってどのような意味を持っているだろうかについての考察を行っています。

クスマノ(1998)によると、「日米の取引慣行は次第に似通ってきているが、重要な点で依然として異なっており日本企業は、品質及び価格パフォーマンスの面で米国に勝っている。また日本の自動車メーカーは、米国においても日本のやり方の導入に努めており、日本の部品メーカーの現地進出にも助けられている」と説明しています。

この論文に掲載されている下記図表1の調査は、1990年に実施したアンケートを基にしており、20数年を経た現在とは若干傾向は違うかとも思われますが、概ね現在も有効な考察結果ではないかと思われます。

図表1.従来の研究にみる取引慣行、パフォーマンスの比較

日本 アメリカ
1.取引企業数、取引先のタイプ 少ない企業数から調達、それらの企業と密接な関係を築き、ジャストインタイム生産方式による生産活動の統合、密接な情報交換、共同部品開発に取り組む クライスラーを除き垂直統合型(すなわち内製)が多い

いくつかの独立系の部品メーカーから主として価格入札によって選んでいる。

2.取引関係の継続性、安定性 長期的で安定している

2年ないし4年の契約期間終了後も、公的な保証はしないものの、継続して同じ部品メーカーと再契約する傾向がある。

アメリカの自動車メーカーは契約期間を1年に限定し、毎年競争入札により最も低価格の部品メーカーに発注する(Asanuma[ 1988])
3.開発における役割分担 ブラックボックス部品が62%を占め、開発工数の50%をサプライヤーが負担する。クラーク(1989)によると新車開発の日本の優位(日本120万時間、欧米350万時間)の3分の1、開発リードタイムにおける日本の優位はサプライヤーの参画によって支えられていると推測した 開発工数の86%を自動車メーカーが負担し、貸与図*部品が81%を占める。
4.価格慣行 目標価格方式

自動車メーカーが目標価格を提示し、サプライヤーがその価格を実現できるよう促し支援する。 また半年に一回のペースで価格引き下げ交渉を行っている(原価低減)

市場の力(価格入札)

1年ごとに競争入札による部品価格の引き下げプレッシャーをかけてはいるものの、一方で部品メーカーが賃金のベースアップほかのコストアップを納入価格に転嫁する事が可能。

5.情報交換と改善提案 日本メーカーがアメリカから輸入している部品の不良率は0.35%から2.6%に達していたが、国内調達部品の不良率は0%から0.01%にとどまっていた。

理由として、継続的な共同設計、材料工程の見直し、顧客の反応の分析、従業員に対する訓練、従業員の問題い解決への参画などが色々な研究者によって指摘されている。

不良の発見を事後的発見に依存し、予防に向けていない、不良品から系統的な学習をする姿勢の欠如、品質問題を各人に持たせる考え方を持たない。
6.情報交換を改善提案 製品開発の各段階を通じて、公式、非公式の仕組みを用いながら、開発に伴う諸活動をオーバーラップさせ、情報を頻繁に交換している。 部品の内製化と評価の低いサプライヤーを簡単に切り捨てる事によって強い交渉力を確保している。

出所 『リーディングス サプライヤー・システム』 (1998)

 


*貸与図  自動車メーカーが設計・仕様決定を行い、部品メーカーに部品製造を外注する為に「貸与」する図面。 部品メーカーが設計・開発を行い、自動車メーカーが承認する図面を「承認図」という。

参考文献  マイケル A. クスマノ、 武石 彰 「自動車産業における部品取引関係の日米比較」『リーディングス サプライヤー・システム』 (1998)、株式会社有斐閣